大学案内

College Information

学長が語る 障がい児保育

学長が語る 障がい児保育

第5回

「みなと違う扱いはできない」:公平と画一

もう大分昔のことになりますが、ラジオから無言の政見放送が流れたことがありました。立候補者がマイクに向かって手話で語りかけたからです。手話通訳を付けることは認められず、やむなく、マイクに向かって手話で自分の考えを表明したのでした。手話通訳が認められなかった理由は、「特別扱いはできない」ということでした。
私たちの意識の中には、「みなと違う扱い」=「特別扱い」=「それは良くない」、逆に言えば、「みなと同じ扱い」=「公平」=「良いこと」という図式があるようで、「特別扱いはできない」と言われると、なんとなく説得力を感じてしまうようです。
しかしながら、「みなと同じ扱い」を「公平」ではなく、「画一」と捉えてみたらどうでしょうか。私たちの意識の中では、「みなと同じ扱い」=「画一」=「必ずしも良いことではない」という図式が生まれてくるのではないでしょうか。
保育現場においても、「みなと同じ扱い」=「公平」=「良いこと」という意識の強さを感じることがあります。

ある保育園での出来事です。年長クラスの、とても重い障がいのあるQくんに一人の保育者が1対1で付いて保育をしていました。昼食の配膳が始まったので、保育者は、Qくんをベランダからお部屋に入れようとしました。が、Qくんは、なぜか、泣いて抵抗し、頑としてお部屋に入ろうとしないのです。一方の保育者は、有無を言わせず部屋に入れようと奮戦しています。それを見ていたある子が保育者に言いました。「ねえ、せんせい。Q君、ベランダでご飯食べたいんだってよ」保育者は反論しました。「先生は、Qくんに、みんなといっしょに食べてほしいのよ」それでも、その子は、保育者に言いました。「せんせい、Qくんに、ベランダで食べさせてあげたっていいんじゃないの」保育者は、多分、その子のやさしさに気付いたのではないでしょうか。一瞬の戸惑いから笑みを浮かべて言いました。「そうね。今日は、Qちゃん、ベランダで食べようか」小春日和のベランダで、Qちゃんと保育者は、その日、楽しい食事のひと時を過ごしたのでした。