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学長が語る 障がい児保育

学長が語る 障がい児保育

第4回

「自閉的傾向」のある子どもと集団保育

シリーズ第2回目の中で、統合保育の目標は、障がい児の集団参加であると述べました。その子なりの集団参加ができれば、まわりの子どもたちの動きに誘い込まれつつ、生活に必要な行動をその子なりに身につけていくことができると考えるからです。
それでは、集団参加が難しい「自閉的傾向」のある子どもの場合、統合保育は、あまり意味がないということになるのでしょうか。
統合保育の草創期には、「自閉的傾向」のある子どもは、大人への愛着関係(アタッチメント)が形成されてから集団保育に入れるべきだという考え方がありました。通常の発達であれば、1歳前には始まる「分離不安(身近な大人の姿が見えなくなることへの不安)」や「後追い」などの愛着行動が、「自閉的傾向」のある子どもの場合は、保育園に入園する時期になっても現れてこないからです。つまり、大人への愛着関係が成立していないので、集団保育の中に入っても、他の子どもたちとの関わりも、課題への取り組みも難しいであろうと考えられたわけです。

しかし、統合保育の実践の中で明らかになったことは、大人への愛着を、「自閉的傾向」のある子どもの中に生み出していく力が、集団保育には、あるということでした。
「自閉的傾向」のある子どもにとって、集団保育は、耐えがたい喧噪の場です。したがって、刺激を遮断する行動、刺激から退避する行動が生じます。しかし、一方で、集団保育が喧噪の場であるからこそ、「自閉的傾向」のある子どもは、その中で静かで落ち着いた優しい雰囲気を醸し出している保育者の存在に惹かれるようになり、接近を始めます。その接近を、保育者が受容的に受け止めることによって、「自閉的傾向」のある子どもの中に、保育者への愛着(甘え)が生まれます。
甘えの関係(愛着関係)が形成されますと、1つには、保育者に対する要求伝達行動(保育者を見ての指差し・発声など)が生まれます。そして、それは、言葉による保育者への要求表現に繋がっていきます。もう1つには、保育者が横に付いていれば、集団保育の喧噪の中であっても、安定した気持ちでその場に居られるようになります。その結果、関心がまわりの子どもたちの動きやまわりの子どもたちが取り組んでいる課題に向かうようになり、それが集団参加に繋がっていきます。
このように、統合保育は、「自閉的傾向」のある子どもが保育者への甘え(愛着)を生み出す土壌となり、かつ集団参加に向かう土壌ともなります。そういう意味で、統合保育は、「自閉的傾向」のある子どもにとって素晴らしい発達の場であるといえます。
経験的には、2,3歳までに統合保育の場に入ることが望ましいようです。おそらく、愛着関係の形成(甘えの出現)が、「自閉的傾向」のある子どもの発達において、決定的に重要な出来事だからではないかと思います。